風間ゼミの方針

はじめに〜目標

2023年4月に奈良県立大学に着任し、芸術系大学ではない地方公立大学で芸術を学ぶ意味とはなんだろうかと考えていました。もちろん、反対にいえば、芸術系大学で芸術を学ぶ意味はアーティストや芸術の専門家になるためだけなのか、ということも想起されますが。

ひとまず、風間ゼミが目指したい目標を以下のように設定してみました。卒業するまでには到達できるといいなと思う目標です。

  1. 自分ならではの視点、感性は何かを発見する。自分の得意なこと、好きなこと、やりたいことに気づく。
  2. 消費者(お客さん)ではなく、自ら何かをつくりだせる人になる。作品やその展示にかぎらず、ワークショップやトークイベントなども含めて。
  3. アートならではのコミュニケーションの可能性とは何か、自分の言葉で考えられるようになること。

風間ゼミからアーティストが育ってくれてももちろん良いのですが、必ずしもそうではない、むしろそうではない進路を選ぶ人の方がほとんどでしょう。その時に、今この社会で必要とされる人ってこんな人かな、あるいは、こういうことができると自分自身の人生も豊かにしていけるんじゃないかな、ということで上記の3つを目標にしてみました。

まず、1つめ「自分ならではの視点、感性は何かを発見する」ことについて。現代の社会では、オリジナリティ(独自性)ということを求められることが増えているように思います。芸術もある時代からそうなってきたわけですが。求められて独自性を無理に得ようとするというよりも、自分ならではの役割・得意なことを見つけると、周囲から必要とされる自身の存在意義を感じ取ることにもつながると思います。

「労働」というのは、時に代わりがきく活動(自分なんかいなくても他の人でもできる)と感じてしまい、どこか疎外感を覚えたりするかもしれません。自分だからこそできること、自分とは何か、このことに気づくうえで、芸術や表現活動は非常に役立つと思います。

次に2つめ「消費者(お客さん)ではなく、自ら何かをつくりだせる人になる」ことについて。今の社会は、楽しいもの・コンテンツにあふれていますね。無料でも、お金を払っても、容易に享楽にふけることができます。1日中ショート動画を見て過ごす、そんな日もあっていいかもしれないけれど、そんな日々が続いていくとしたら、それで十分幸せに生きられるものでしょうか。

もし、何か足りないなと思ったその時、よからぬ快楽に手を出すくらいなら(それもまた人生で良いけれど)、何かをつくりだす人になれたら、その人生はもっと豊かになれるはず。ものとしての作品でなくても、ちょっとした対話のイベントとか、オリジナルでつくった冊子(ZINE)とか、どうせなら1日だけお店を開いちゃうとか、そうしてつくりだした場を必要としてくれる人が集まったなら、それはこの社会(誰かの人生)をも豊かにしている証拠です。素敵ですよね。

そして「アートならではのコミュニケーションの可能性とは何か、自分の言葉で考えられるようになること」について。せっかく芸術を学ぶゼミですから、このことは芸術の歴史や理論、いろんなアーティストたちの作品や実践をみていきながら、考えられるといいですね。アーティストたちは、どのようにこの世界と向き合ってきたか・向き合っているか、そのコンセプトを知るなかでこの世界を見つめる解像度があがるといいですね。

風間自身、芸大を出て普通に民間に就職した時、「アートなど必要とせずとも、知らずとも生きていける人がこの社会の大多数なのか!?」というカルチャーショックを覚えました。アート界でさわいでいることが、実際には誰も知らなかったり、東京でさわいでいることは地方では何も起きていないも同然であったり、いろんな世界の狭間に生きているわけですが、まあそれはそれで良いとして、長い人生のどこかで必要とする場面がきたその時に、風間ゼミでの学びが助けになったらいいなと。

IMO/Wモデルで学ぶ

IMO/Wモデルは、風間ゼミ独自の学びスタイルです。Input(インプット) ↔︎ Moyamoya(モヤモヤ) ↔︎ Output(アウトプット)、そしてどんな時もWakuwaku(わくわく)を忘れずに、というものです。重要なのは、モヤモヤする時間を持つことですが、順番にみていきましょう。

何かをしようと思った時、まず下調べって大事ですよね。インプット、すなわち自分が何か情報を得ることには、いろんな方法があります。本を読むことは代表的なことですが、誰かにインタビューをしにいく、何かのアートプロジェクトや文化事業の現場に足を運んで、手伝ったりする経験もまたインプットになります。

風間ゼミでやることとしては、以下です。

  • 文献講読
  • ゲストレクチャー(たまに)
  • 芸術祭などを訪れる合宿(任意参加)

※参考記事

Moyamoya(モヤモヤ)悩めることも才能!

インプットから即座にアウトプットにいくのではなく、自分が得た情報や経験に何か違和感はないか、ひっかかりはないか、悩んだことはないか、考えなければならない課題はないか、立ち止まって考えてみましょう。

あるいは、アウトプットをとりあえずしてみるなかで、考えてもいいかもしれません。発表資料をつくりながら考えたり、発表をしてみて人からコメントをもらって考えたり。

「振り返る」という時間、そのなかでモヤモヤ悩む、考える、そうした時間や経験がもっとも学びを深めると思います。

風間ゼミでやることとしては

  • ゼミ内でのディスカッション
  • 個別面談

Output(アウトプット)

インプットと同様に、アウトプットにもさまざまな方法があります。風間ゼミの特徴のひとつは「成果展」です。4回生になったら最終的には卒業論文を書くわけですが、論文という表現スタイルに入る前に、それ以外の表現方法を成果展での展示やワークショップの開催という仕方で試みます。

アウトプットするには、何かしらのインプットや自らの内に蓄積された何かを出すしかありません。

風間ゼミでやることとしては次のとおりです。

  • 成果展
  • レポート提出(企画書、成果展の振り返りなど)
  • ゼミ内での発表
  • 卒業論文(4回生)

※参考記事

Wakuwaku(わくわく)

アイデアを妄想している時(初期衝動)って一番楽しいけれど、いざそれをやるとなると面倒に感じてしまいますよね。何かやらなければならないことがある時、全然やる気が起こらないけれど、いざ始めてみると集中できたり没頭できたりする経験はありませんか?手を動かしていると楽しくなってくる。これを作業興奮というようです。

まずパソコンをひらいてみるとか、ひたすら自分の関心に近そうな文献や動画のリンクを収集しまくるとか、そういう手始めとなる作業を始めてみて、そこで得た作業興奮から面倒なこと、難しいこと、自分がやると決めたことに向き合ってみてください。わくわくがなければ、それは自分が好きなことではないかもしれない。そんなことにも気づくためにも、「わくわく」感はどこにあるのか、探ってください。

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