2025年2月28日に、オックスフォード・ブルックス大学のジェイソン生成、Warwick大学の研究者・アーティスト、Ikon Galleryのディレクターらと、HMP Grendon(グレンドン刑務所)を訪問し、アート活動を行う受刑者たちと交流しました。

グレンドン刑務所は、ヨーロッパで最初の治療共同体刑務所(TC:therapeutic community)といわれます。治療共同体は、主に薬物依存や精神疾患等の対象者への集団参加型の治療を指し、グループセラピーやミーティングを特徴とします。
このグレンドン刑務所とアーティスト・イン・レジデンスプログラムを運営しているのが、バーミンガムにあるアートギャラリー・Ikon Galleryです。Ikon Galleryは、このレジデンスプログラムを通じて、投獄やリハビリテーションに関する公的な議論に人々を関与する機会をもたらすことを目的としています。
諸外国の刑務所を訪問したのは初めてでした。入り口では、しっかりとボディチェックが行われ、スマートフォンやカメラなどは一切持ち込むことができません。扉はつねに二重扉であり、緊張感がありました。
レジデンスプログラムのスタジオとなっている場所を訪れると、現在滞在中のアーティストがおり、グレンドン刑務所での取り組みについて意見交換をしていました。カメラを持ち込めないので撮影はできませんが、外観は次の写真のような場所です。

すると、突然3人の男性が入ってきて、自然と握手と挨拶をするなり、すぐさま彼らが自分の作品を持ち出してきて説明を始めました。コーヒーや紅茶もいれてもらい、飲みながら歓談がはじまりました。
あれ?この人たちがこのグレンドン刑務所の受刑者なのかな?と、当初はわかりませんでした。ペンキのついた私服を着ていて(いわゆる囚人服ではない)、作品の説明をしているその姿はアーティストそのものでした。
そして、結局は彼らが受刑者だったということがわかってきました。富嶽三十六景の模写をした人が、僕が日本人とわかるなり話しかけてくれて、Koestler Artsにも作品を応募した経験や、「今度はこんな素材を使ってやってみようと思うんだ、うまくいくかわからないんだけど」など、現在制作中の作品の構想まで、いろいろな話を伺いました。
刑務所の中も案内をしていただいたのですが、長い廊下には受刑者たちの作品がずらーーっと並んでいて、長い廊下の途中でWing(棟)が分かれていくのですが、その入り口に受刑者が制作したであろう看板で「Welcome to A Wing!!」「Welcome to B Wing!!」と、それぞれテイストの違う(作者が違う)、ポップでカラフルな文字が迎えてくれます。
扉は常に二重扉なのですが、Ikon GalleryのJamesさんも鍵を持っていて、グレンドン刑務所の職員が内扉を閉めたあと、Jamesさんが外扉の鍵を閉めるというスムーズな連携に、その長年のパートナーシップの証を見ていたような気になりました。
過去の作品のひとつに、「EVERY PRiSON SHOULD BE AN ART SCHOOL」と書かれたメッセージがあり、そのトートバッグをもっている受刑者がいました。Ikon Galleryの方のお話では、もとの作品は「ALL SCHOOLS SHOULD BE AN ART SCHOOLS」というもののようです。


グレンドン刑務所を出て、ほんのちょっと歩いたところにスプリングヒルの開放刑務所があり、そこでもまたアーティスト(受刑者)の部屋を訪ねて話を聞けました。特徴的なブルーの作品シリーズがずらーーっと壁に並んだ部屋で、本当にスタジオです。
またとない経験でした。とても不思議な感覚。セキュリティチェックは受けるし、鍵も常に厳重で、たしかにそこは刑務所なんだけど、じゃあ”受刑者”に会ってきたのかというと、完全にアーティストと会ってきたという感覚です。
日本でも、ギャラリーと刑務所が連携してプログラムを運営する日はくるでしょうか。